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コラム

更新日:2026/08/17  公開日:2026/08/16

マーケティング調査の進め方|デプスインタビューを中心に、手法の選び方と実践への落とし方

マーケティング調査の進め方|デプスインタビューを中心に、手法の選び方と実践への落とし方

まいどおおきに、ASAKURAの朝倉です。

今日はマーケター必須の必殺技「デプス調査」をはじめとする手法についてご紹介します。

「顧客の声を聞こう」という話になったとき、最初に出てくるのはたいていアンケートです。

予算が取れれば調査会社に依頼し、取れなければGoogleフォームで自社リストに配信する。集計してグラフにして、社内で共有する。

そして、そのグラフを見ながら誰かが言います。「で、結局どうすればいいんだっけ」

この記事は、その状態を避けるために書いています。

先に結論を書きます。調査で失敗する原因のほとんどは、手法の選択ミスではありません。調査の前に「何を決めるための調査か」を定義していないことです。決めるべきことが曖昧なまま集めたデータは、どれだけきれいに集計しても意思決定に接続しません。

この記事では、まず調査全体の地図を示し、次にデプスインタビューを中心に定性調査を詳しく扱い、定量調査、行動データの順に整理して、最後に実践への落とし込みまでを通します。用語は都度、丁寧に説明します。

この記事で答えること

  • 調査の前に決めるべき3つのこと
  • 定性と定量、探索と検証。手法の地図
  • デプスインタビューとは何か。何人に、どう聞き、どう分析するか
  • ラダリング、投影法など具体的な聞き方の技術
  • 聞いてはいけない質問と、バイアスの避け方
  • 定量調査のサンプルサイズ、質問設計、分析手法
  • 調査結果を施策に接続する手順
  • 予算と期間の目安
  • AIを調査に使う場合の現在地

調査の前に決める3つのこと

手法を選ぶ前の話です。ここが最も重要で、最も飛ばされます。

1つ目:この調査で何を決めるのか

「顧客理解を深めたい」は目的になりません。決定事項として書き直してください。

曖昧な目的決定事項として書き直したもの
顧客理解を深めたい次期商品の訴求軸を、価格・時短・品質のどれにするか決める
ブランドの現状を知りたいブランド刷新に投資すべきか、現状維持でよいかを判断する
ニーズを把握したい新機能A・B・Cのうち、どれを先に開発するか決める
満足度を測りたい解約を減らすために、どの接点を改善するか特定する

右列で書けないなら、調査はまだ早い段階です。調査ではなく、社内で議論すべき論点が残っています。

2つ目:いまの仮説は何か

「先入観なく聞きたい」という理由で仮説を持たずに調査に入るのは、一見中立に見えて、実は非効率です。仮説がないと、何を聞けばよいかが定まらず、分析でどこを見ればよいかも定まりません。

仮説は「当てるため」ではなく「外すため」に持ちます。想定と違ったときに初めて、そこに発見があると分かります。仮説がなければ、想定外に気づくこともできません。

書き方は単純です。「◯◯な人は、△△という理由で、□□している(はず)」。この文を3つほど書いてから調査設計に入ってください。

3つ目:どういう結果が出たら、どう動くのか

事前に決めておきます。

  • Aという結果なら、この施策を進める
  • Bという結果なら、いったん止めて再検討する
  • Cという結果なら、企画そのものを取り下げる

これを決めずに調査すると、結果が出たあとで解釈が始まります。そして人は、自分が進めたい方向に都合よく解釈します。事前に決めておくことが、その防止策になります。

調査の地図:4つの象限

手法の全体像を、2つの軸で整理します。

縦軸は、定性か定量か。横軸は、探索か検証か。

探索 仮説をつくる
検証 仮説を確かめる
定性
定量
1

定性 × 探索

  • デプスインタビュー
  • グループインタビュー
  • 行動観察
  • 日記調査

少人数を深く見て、まだ言葉になっていない構造を見つける。ここで仮説が生まれる。

2

定性 × 検証

  • コンセプト受容性の確認
  • ユーザビリティテスト

作った案を実際に見せ、触らせる。なぜ伝わらないかまで分かるのが数値との違い。

1′

定量 × 探索

  • 探索的なアンケート
  • 行動ログの分析
  • 検索データ

数字の中から異常値や偏りを見つける。「なぜ」は分からないので、定性へ渡す。

3

定量 × 検証

  • 本調査アンケート
  • A/Bテスト
  • コンジョイント分析

仮説がどれくらいの大きさかを測る。ここまで来て初めて、投資判断の根拠になる。

定性調査とは、言葉や行動そのものを扱う調査です。「なぜそう考えるのか」「どういう経緯でその行動に至ったのか」を明らかにします。数値化はしません。少人数を深く見ます。

定量調査とは、数値で測る調査です。「その考えを持つ人が何%いるのか」「AとBのどちらが多いのか」を明らかにします。多人数を浅く見ます。

この2つは対立するものではなく、順番で使うものです。

一般的な流れは、定性で仮説をつくり、定量でその大きさを確かめる、という順です。逆の順もあります。定量で「20代の解約率だけが高い」という事実を見つけ、その理由を定性で掘る。どちらもあり得ますが、いきなり定量から入って、出てきた数字の理由が分からず止まる、というのが最もよくある失敗です。

もう1つ、覚えておくと便利な区分があります。

アドホック調査とは、そのつど目的を決めて単発で行う調査です。パネル調査(継続調査)とは、同じ対象・同じ設問で定期的に繰り返し、変化を見る調査です。ブランド認知率の推移などは後者で測ります。

定性調査の手法一覧

デプスインタビューに入る前に、選択肢を並べておきます。

手法概要向いている場面注意点
デプスインタビュー1対1で60〜120分、深く聞く購買理由、意思決定の経緯、センシティブな話題一人あたりのコストが高い
グループインタビュー(FGI)4〜6人程度を同時に、司会者が進行アイデアの発散、反応の幅を短時間で見る声の大きい人に引っ張られる
行動観察(エスノグラフィ)実際の生活・利用場面を観察する本人が言語化できていない行動時間と手間がかかる
日記調査(ダイアリー調査)一定期間、行動や気持ちを記録してもらう時間経過のある行動、季節性対象者の負担が大きい
ホームビジット自宅を訪問して観察・インタビュー実際の使用環境、収納、動線対象者の心理的ハードルが高い
オンラインコミュニティ(MROC)対象者を集めた非公開の場で継続的に会話長期の関係構築、アイデア共創運営の手間がかかる
ユーザビリティテスト実際に操作してもらい、つまずきを観察Webサイト・アプリの改善点特定「使いやすさ」以外は分からない

グループインタビューとデプスインタビューの使い分けについて、補足します。

グループインタビューは、他の参加者の発言が刺激になって話が広がるという利点があります。一方で、集団心理が働きます。最初に発言した人の意見に引きずられる(同調圧力)、社会的に望ましい答えに寄る、本音を言いにくいテーマでは沈黙する。

したがって、次のような場合はデプスインタビューを選びます。

  • 収入、健康、コンプレックス、家庭内の関係など、他人の前で話しにくいテーマ
  • 購買の意思決定プロセスを、時系列で細かく追いたい場合
  • 対象者が競合関係にある(BtoBで同業他社の担当者を同席させられない)場合

デプスインタビュー:定義と設計

ここが本題です。

定義

デプスインタビュー(Depth Interview、DI、1on1インタビューとも)は、インタビュアーと対象者が1対1で行う定性調査です。一般に1時間以上かけ、単純な一問一答ではなく、そのとき何を考えたのか、どういう背景からその選択に至ったのかという、アンケートでは分からない深い話を引き出します。

「深層心理を探る」と説明されることが多いのですが、実務的には少し違う言い方のほうが正確です。デプスインタビューが明らかにするのは、本人が意識していない動機ではなく、本人は知っているが聞かれないと言わないことです。

たとえば「なぜこの商品を選んだのですか」と聞くと「品質がよさそうだったから」と返ってきます。しかし丁寧に経緯を追うと、実際には「妻が雑誌で見て勧めてきた」「たまたま在庫があったのがこれだけだった」だったりします。この差が、施策の方向を変えます。

何人にインタビューするのか

最もよく聞かれる質問です。そして、統計的な正解はありません。

定量調査ではサンプルサイズを増やすほど統計的な誤差が縮小するため「多いほうが信頼性が高い」が原則として正しいのですが、定性調査ではある人数を超えると新たなテーマがほとんど出現しなくなる点があります。これを飽和(サチュレーション)と呼びます。それ以降のインタビューは既知の情報の再確認にしかなりません。

目安として、いくつかの水準が知られています。

状況人数の目安
1セグメントあたりの最小構成3〜5人
ターゲット像の具体化5〜10人
仮説構築を目的とする場合20〜30人程度
改善案の具体的な抽出まで踏み込む場合30〜50人も視野に

古典的な研究として、Griffin & Hauser(1993)が20〜30件のインタビューで顧客ニーズの90〜95%が明らかになると示しています。逆に言えば、30件を大きく超える調査は残り5〜10%を拾うためのもので、多くの実務的な調査では投資対効果が見合いません。

注意点として、「6人でよい」を出発点にするのは危険な場合が多いという指摘があります。属性を極度に絞り込んだ対象者群(たとえば20代女性・都市部在住・特定ブランドのヘビーユーザー)であれば6人でもパターンが見えることがありますが、複数のセグメントにまたがる調査や、対象者の経験・価値観が多様な調査では6人では情報が偏ります。消費財メーカーのターゲット調査では13〜15人、ブランド戦略調査では12〜20人を要するケースが多いとされます。

実務的な決め方は、次の3段階です。

  1. セグメントを何個に分けるかを決める(例:既存顧客、離反顧客、競合利用者の3つ)
  2. 1セグメントあたり4〜5人を初期設定にする(合計12〜15人)
  3. 実施しながら、新しい話が出なくなったかを毎回確認し、必要なら追加する

なお、ユーザビリティテストは別の話です。こちらは5人の被験者で課題の85%を発見できるという経験則が知られており、デプスインタビューの人数論とは根拠が異なります。混同されがちなので、区別してください。

リクルーティングとスクリーナー

リクルーティングとは、インタビュー対象者を集める工程です。ここの精度が調査全体の質を決めます。

集め方は主に3つ。調査会社のパネル(登録モニター)を使う、自社の顧客リストから声をかける、SNSや店頭で募集する。

スクリーナー(スクリーニング調査票)とは、対象者を選ぶための事前アンケートのことです。ここで条件に合う人だけを絞り込みます。

スクリーナーで必ず入れるべき項目があります。

項目目的
調査対象条件(利用頻度、購入時期、年代など)本来の対象を確保する
同業種・関係者の除外競合企業やマーケティング関係者、広告代理店勤務者を外す
直近の調査参加歴「調査慣れ」した人を外す(半年以内に3回以上など)
発話のしやすさの確認自由記述を1問入れ、書ける人を選ぶ

3つ目と4つ目が抜けると、調査が成立しないことがあります。パネルに登録している人の中には、謝礼目的で頻繁に参加している層がいて、「調査で求められている答え」を推測して話す傾向があります。また、自由記述が一言しか書けない人は、60分のインタビューが持ちません。

謝礼(インセンティブ)の相場は、対象者の属性と拘束時間によりますが、一般消費者の60分で5,000〜10,000円程度、専門職やBtoBの決裁者になると数万円になることもあります。

インタビューフロー(質問の設計)

インタビューフローとは、当日の進行台本のことです。台本どおりに進めるためではなく、脱線したときに戻る場所を確保するために作ります。

構成の基本形は次のとおりです。

インタビューの想定時間選ぶと、各段階の時間配分が切り替わります
5101351013152027203040101520557
    1導入・ラポール形成5分10分13分

    挨拶、調査の目的説明、録音・録画の許諾、緊張をほぐす雑談。

    ここを飛ばすと、当たり障りのない答えしか返ってきません。ラポール(話しやすい信頼関係)ができていない状態で本題に入っても、対象者は「正解」を探して答えます。

    2属性・背景の確認5分10分13分

    生活、仕事、家族構成など、前提の把握。

    スクリーナーで分かっている項目を繰り返し聞かないこと。ここは事実確認ではなく、その人の文脈を掴む時間だと考えてください。

    3行動の事実確認15分20分27分

    実際に何をしたか。いつ、どこで、いくらで、誰と。

    意見を聞く前に、事実を聞く。「普段どう選びますか」ではなく「いちばん最近買ったときのことを、店に入るところから順に教えてください」。一般論を聞くと、実態より整理された話が返ってきます。

    4理由の深掘り20分30分40分

    なぜそうしたのか。他の選択肢はあったか。決め手は何だったか。

    最も時間を割く山場です。ラダリング(属性→結果→価値と登る)、投影法(他人に置き換えて聞く)を使います。「なぜ」の連打は詰問になるので、「そのとき、どんな感じでしたか」に言い換えてください。答えたあと3〜5秒の沈黙を置くと、補足が出ます。

    5仮説の確認・投げかけ10分15分20分

    コンセプト案への反応など、こちらの仮説をぶつける段階。

    必ず最後に置きます。先に見せると、以降の発言がその案に引きずられます。「もしあったら買いますか」への回答は、需要予測には使わないでください。

    6クロージング5分5分7分

    言い残したことの確認、謝礼のお渡し、今後の連絡について。

    「最後に、聞かれなかったけれど話したかったことはありますか」の一言を必ず入れてください。フローの外にある話が出てくるのは、たいていここです。

台本は、守るためではなく、戻るために作る

インタビューフローは、そのとおりに進めるためのものではありません。脱線したときに戻る場所を確保するために作ります。想定外の話が出たら、そちらを追ってください。台本どおりに終わったインタビューからは、たいてい想定内のことしか出てきません。

ラポールとは、話しやすい信頼関係のことです。ここを飛ばして本題に入ると、当たり障りのない答えしか返ってきません。

設計上、最も重要な原則を1つ挙げます。

意見を聞く前に、事実を聞く。

「どんな商品がほしいですか」と最初に聞くと、その場で作られた願望が返ってきます。そうではなく、「直近で買ったのはいつですか」「そのとき、他に何を検討しましたか」「決め手は何でしたか」と、実際に起きた出来事から入ります。事実は記憶に残っており、後から作りにくいからです。

深掘りの技術

具体的な聞き方の技術を挙げます。

エピソード想起法。抽象的な質問を、特定の出来事に置き換えて聞きます。「普段どう選んでいますか」ではなく「いちばん最近買ったときのことを、店に入るところから順に教えてください」。人は一般論を語るとき、実態より整理された話をします。

ラダリング法。手段から価値へと梯子を登るように掘る方法です。属性(何が)→ 結果(どうなる)→ 価値(だから何が嬉しい)の順に進みます。

例を挙げます。

  • 「泡立ちがいいものを選びます」(属性)
  • 「泡立ちがいいと、何が良いのですか」→「短時間で洗える」(結果)
  • 「短時間で洗えると、どう嬉しいですか」→「朝の支度に余裕ができる」(結果)
  • 「余裕ができると、どうなりますか」→「子どもに怒らずに済む」(価値)

この最後の一段が、訴求のコピーになります。「泡立ちがいい」を訴求している競合の中で、「朝、子どもに怒らずに済む」を訴求できれば差別化になります。

投影法。直接聞くと答えにくいことを、他人や物に置き換えて聞く方法です。

  • 「このブランドが人だとしたら、どんな人ですか」(擬人化法)
  • 「あなたと同じ立場の人が、これを買わなかったとしたら、理由は何だと思いますか」(第三者法)
  • 「この商品を買う人と買わない人、それぞれの1日を想像してみてください」

自分の話として答えにくいこと(見栄、コンプレックス、価格への抵抗)を引き出すときに使います。

沈黙を使う。相手が答えたあと、すぐ次の質問に行かず、3〜5秒待ちます。この間に、本人が言い足りなかったことを補足することが非常に多い。インタビューに慣れていない人ほど、沈黙を埋めようとして質問を重ねてしまいます。

聞いてはいけない質問

そのまま調査を無効にする質問があります。

誘導質問。「この機能があれば便利だと思いませんか」。答えは「思います」以外に出ません。

仮定質問の乱用。「もし〇〇があったら買いますか」。買うと答えた人の多くは買いません。購入意向を聞くこと自体は否定しませんが、それを需要予測に使うのは危険です。実際に起きた行動のほうが信頼できます。

Whyの連打。「なぜ」を4回続けると、相手は詰問されていると感じます。「なぜ」の代わりに「そのとき、どんな感じでしたか」「もう少し詳しく教えてください」に言い換えます。

専門用語での質問。「このUIのアフォーダンスについて」は通じません。相手の言葉で聞きます。

自社名を先に出す。冒頭で調査主体を明かすと、配慮した答えになります。倫理上、最後には明かしますが、順番を工夫します。

バイアスの整理

調査結果を歪める代表的なバイアスです。用語として知っておくと、社内でのレビューに使えます。

名称内容対策
社会的望ましさバイアス良く見られたい方向に答えが寄る投影法、第三者法を使う
確証バイアス調査者が自分の仮説に合う発言だけ拾う分析を複数人で行う
誘導バイアス質問の仕方が答えを方向づけるフローを第三者にレビューさせる
想起バイアス記憶が事実と違う直近の出来事に限定して聞く
選択バイアス集めた対象者が母集団を代表していないリクルーティング条件を明示的に設計する
生存者バイアス使い続けている人だけに聞いている離反顧客・非利用者にも必ず聞く

最後の生存者バイアスは、企業内の調査で最も頻繁に起きます。既存顧客リストから対象者を集めると、その商品に満足している人ばかりが集まります。改善のヒントは、むしろ離れた人の中にあります。

記録と分析

インタビューをやりっぱなしにしてしまう例が多いので、分析の手順を書きます。

インタビューを終えてから、意思決定に届くまで/ 情報量は段階ごとに絞られていきます

  1. 1

    逐語録の作成

    TRANSCRIPT

    録音から文字起こしをします。要約ではなく、話した言葉そのままを残します。「なんか、その、まあ普通かなって」という言い淀みにも情報があります。近年は自動文字起こしの精度が上がっているので、修正前提で使えます。

    この段階の成果物逐語録(数万字)
  2. 2

    コーディング

    CODING

    逐語録を読みながら、発言のまとまりごとにラベルを付けていきます。「価格への抵抗」「家族の影響」「情報収集の起点」といった具合です。1件ずつ行い、全件終わったらラベルの一覧を作ります。

    この段階の成果物ラベル一覧(数十個)
  3. 3

    グルーピング

    GROUPING

    似たラベルをまとめて、より大きなテーマに束ねます。ここでKJ法(親和図法)を使うことがあります。カードに書いて並べ替え、近いものを集め、グループに名前を付け、グループ間の関係を線で結ぶ手法です。

    この段階の成果物テーマ(5〜7個)
  4. 4

    解釈

    INSIGHT

    テーマを並べたうえで、「つまり何が起きているのか」を1文で書きます。この1文がインサイトです。事実・解釈・示唆を分けて書くと、精度が上がります。

    この段階の成果物インサイト(1文)
  5. 5

    意思決定への接続

    DECISION

    調査の前に決めた「何を決めるための調査か」に戻り、その答えを書きます。ここまで到達して、はじめて調査が完了します。

    この段階の成果物決定(1つ)

この工程でよくある2つの失敗

印象に残った一言だけを持ち帰る。15人のうち1人が言った強い言葉が、全体の結論のように報告される。第2段階で「何人が言ったか」を併記しておけば防げます。

発言をそのまま施策にする。「もっと安ければ買う」と言われて値下げを検討する、という流れです。発言は素材であって結論ではありません。

定量調査:数で確かめる

定性で作った仮説を、数で確認する段階です。

サンプルサイズの考え方

必要な人数は、許容できる誤差から逆算します。

標本誤差とは、一部の人に聞いた結果が、全体(母集団)の真の値からどれくらいずれる可能性があるかを示す幅です。

一般的な目安として、信頼度95%で許容誤差±5%なら約400人、±3%なら約1,000人が必要になります。これは母集団の大きさにあまり依存しません。1万人が対象でも100万人が対象でも、必要な人数はほぼ同じです。直感に反しますが、統計の性質です。

実務では、次のように考えます。

目的サンプルサイズの目安
全体の傾向をざっくり把握300〜400
性年代別など、クロス集計でセグメントを比較各セグメント100以上(合計で数百〜千)
細かい層別分析、有意差の検定1,000以上

重要なのは、分析したい単位で必要数を確保することです。全体で400人集めても、「20代男性」が15人しかいなければ、その層の分析はできません。設計時に、割付(クォータ、各層に何人ずつ確保するか)を決めてください。

質問設計の落とし穴

アンケートの質は、質問文で決まります。

ダブルバーレル質問。1つの質問に2つのことを含めてしまう誤りです。「デザインと価格に満足していますか」は、デザインには満足だが価格には不満の人が答えられません。必ず分けます。

キャリーオーバー効果。前の質問が後の質問に影響することです。環境問題の重要性を長々と聞いた直後に「環境配慮商品を買いたいですか」と聞けば、買いたい方向に寄ります。順番を設計します。

黙従傾向(イエス・テンデンシー)。人は肯定的な選択肢を選びやすい傾向があります。肯定形の質問ばかり並べると全体が甘くなるので、一部を否定形にする、あるいは選択肢の並び順をランダム化します。

選択肢の網羅性と排他性。選択肢は「すべての可能性を覆っていること」と「重複がないこと」が必要です。「その他」と「あてはまるものはない」を用意します。

よく使う尺度

尺度とは、回答を測るものさしのことです。

リッカート尺度。「非常にそう思う〜まったくそう思わない」の5段階または7段階で答えてもらう形式です。最も一般的です。偶数段階(4段階、6段階)にすると中間の逃げ場がなくなり、態度を強制的に決めさせられます。どちらが良いかは目的次第です。

SD法(セマンティック・ディファレンシャル法)。「高級な⇔庶民的な」のように反対の言葉を両端に置き、その間のどこかを選んでもらう形式です。ブランドイメージの測定に使われます。

NPS(ネット・プロモーター・スコア)。「友人や同僚に勧める可能性はどのくらいですか」を0〜10で聞き、9〜10を推奨者、7〜8を中立者、0〜6を批判者として、推奨者の割合から批判者の割合を引いた値です。業界によって水準が大きく違うので、他業種との比較には意味がありません。自社の時系列比較に使うものです。

分析手法

代表的なものを、目的別に整理します。

手法何が分かるか使いどころ
単純集計(GT)全体の回答分布まず全体像を見る
クロス集計属性別の違い「誰が」違うのかを見る
カイ二乗検定その差が偶然でないか社内で「差がある」と言う前に確認する
因子分析多数の質問の背後にある共通軸イメージ項目を数個の軸に集約する
クラスター分析回答パターンが似た人のグループ分けセグメンテーション
重回帰分析何が総合満足度に効いているか改善の優先順位づけ
コンジョイント分析価格・機能などの組み合わせへの選好仕様と価格の最適な組み合わせを探る
MaxDiff項目間の相対的な重要度「全部重要」という回答を避ける

コンジョイント分析について補足します。「この機能は重要ですか」と1つずつ聞くと、ほとんどの項目が「重要」になります。コンジョイント分析では、機能と価格の組み合わせをいくつも提示して選ばせ、そこから各要素の貢献度を逆算します。トレードオフを含めて聞くので、実際の購買に近い結果が得られます。新商品の仕様と価格を決める場面で有効です。

MaxDiffも同じ思想です。項目群の中から「最も重要なもの」と「最も重要でないもの」を選ばせることを繰り返し、相対的な優先順位を出します。

聞かずに分かること:行動データと既存データ

調査には費用がかかります。その前に、すでにあるデータで分かることを確認してください。

データ分かること注意点
アクセス解析どのページで離脱しているか、流入経路理由は分からない
検索クエリ(サーチコンソール等)顧客が使っている実際の言葉顕在層に偏る
レビュー・口コミ購入後の評価、他社との比較点極端な意見が多い
問い合わせ・クレーム履歴つまずいている箇所声を上げた人だけ
販売データ何が、いつ、いくつ売れたかなぜ売れたかは不明
公的統計・業界レポート市場規模、人口動態自社の顧客とは限らない
営業担当者へのヒアリング現場で実際に言われていること印象に偏る場合がある

デスクリサーチとは、既存の公開情報を集めて整理する調査です。市場規模、競合の動向、法規制など、聞かなくても分かることは先に押さえます。

顧客が使っている言葉を知るには、検索クエリとレビューが有効です。社内で使っている用語と、顧客が使う言葉は、ほとんどの場合ずれています。

このずれは、そのまま広告文やサイトの見出しの改善につながります。

実践への接続

調査を施策に変える手順です。ここが記事の目的地です。

インサイトの書き方

インサイトという言葉は曖昧に使われがちなので、定義を決めます。ここでは「顧客の行動を説明し、かつ打ち手を示唆する発見」とします。

事実、解釈、示唆の3つを分けて書くと、精度が上がります。

段階
事実(何が起きたか)15人中11人が、購入前に家族に相談していた
解釈(なぜそうなるか)金額が家計に影響する規模で、独断で決めにくい
示唆(だから何をするか)訴求対象を本人だけでなく配偶者にも広げる。比較資料を家に持ち帰れる形にする

社内共有では、事実と解釈を混ぜないでください。混ざると、解釈への異論が事実の否定にまで及び、議論が止まります。

カスタマージャーニーマップに落とす

カスタマージャーニーマップとは、顧客が認知してから購入・利用に至るまでの流れを、段階ごとに整理した図です。

各段階について、次を埋めます。

項目内容
行動実際に何をしているか
接点(タッチポイント)どこで情報に触れるか
思考・感情そのとき何を考え、何を不安に思っているか
課題どこでつまずいているか
施策打つべき手

デプスインタビューの結果は、このマップに直接流し込めます。時系列で聞いているからです。「意見を聞く前に事実を聞く」という設計原則は、ここで効いてきます。

ペルソナを作る場合の注意

ペルソナとは、代表的な顧客像を1人の人物として具体的に描いたものです。

有効な場面はありますが、注意点が2つあります。

1つは、平均から作らないこと。全体の平均値を集めて作った人物像は、実在しない誰かになります。実際のインタビュー対象者のうち、典型的だった1人を核にして作るほうが機能します。

もう1つは、作って終わりにしないこと。壁に貼られたペルソナは半年で見られなくなります。使う場面(クリエイティブのレビュー、機能の優先順位づけ)を決めてから作ってください。

施策に落とし、検証する

調査は仮説を作るところまでです。最終的な答えは市場が返します。

段階やること
1調査から得た示唆を、具体的な施策に変換する
2効果を測る指標を決める(CVR、CPA、継続率など)
3小さく試す(A/Bテスト、限定エリアでの先行実施)
4結果を見て、仮説を修正する

A/Bテストとは、2つの案を同時に出して成果を比較する方法です。訴求文、デザイン、価格表示などで使えます。ここで注意すべきは、十分な回数が集まる前に判断しないことです。訪問数が少ない状態での「Aのほうが良さそう」は、偶然の可能性が高くなります。

よくある失敗

現場でよく見る順に挙げます。

調査してから目的を考える。第1章のとおりです。最も多く、最も高くつきます。

対象者が偏っている。既存の優良顧客だけに聞いて、「うちの商品は満足度が高い」と結論する。離反顧客と非利用者に聞かないと、改善点は出てきません。

聞いたことをそのまま作る。顧客は解決策の専門家ではありません。「もっと軽くしてほしい」という要望の背後に「持ち運ぶのが面倒」という課題があるなら、軽量化以外の解決策もあり得ます。要望ではなく課題を取り出してください。

n数の小さい差を報告する。「20代の満足度が10ポイント高い」と言っても、20代が18人なら誤差の範囲です。検定するか、サンプル数を併記してください。

調査結果が社内政治に使われる。すでに決まっている施策の裏付けとして調査を発注する、というケースがあります。この場合、調査は儀式であって意思決定の材料ではありません。第1章の「どういう結果が出たらどう動くか」を事前に文書化しておくことが、これを防ぐ唯一の方法です。

一度きりで終わる。市場も顧客も変わります。年に1回、同じ設問で定点観測する仕組みを持つと、変化に気づけます。

予算と期間の目安

調査会社に依頼する場合の、一般的な感覚を書きます。実際の金額は内容と会社によって大きく変わるので、参考程度にご覧ください。

手法期間の目安費用の傾向
デスクリサーチ1〜2週間自社実施なら人件費のみ
ネットリサーチ(n=400程度)2〜4週間手法の中では比較的低額
デプスインタビュー(10〜15人)4〜8週間対象者の希少性で大きく変動
グループインタビュー(2〜3グループ)4〜6週間会場費・謝礼が加算
行動観察・ホームビジット6〜12週間高額になりやすい

期間で見落とされやすいのが、リクルーティングの時間です。対象条件が厳しいほど、人が集まりません。「年商10億円以上の製造業で、生産管理システムの導入を決裁した人」のような条件だと、1人あたり数週間かかることもあります。スケジュールを引くときは、ここに余裕を取ってください。

なお、業界全体の動向として、日本の市場調査の推計市場規模は2024年度で2,725億円、前年度比105.1%でした。経営コンサルティングやサンプルパネル提供などを含めた「インサイト産業」としては4,799億円と見積もられています。調査会社の側も、実務の代行から戦略提言へと役割が移りつつあり、発注側もそれを前提に相談先を選ぶ時期に入っています。

AIを調査に使う場合の現在地

近年、生成AIを調査に使う話が増えています。整理しておきます。

現時点で有効なのは、次の用途です。

  • デスクリサーチの効率化(公開情報の収集と要約)
  • インタビューの文字起こしと、コーディングの下書き
  • 自由記述回答の分類・要約
  • 質問文のたたき台作成、ダブルバーレルなどのチェック

一方、慎重に扱うべきなのが合成回答者(シンセティック・レスポンデント)です。実在の人間ではなく、AIが生成した架空の回答者に答えさせる手法で、ツールも登場しています。

考え方として理解しておく価値はありますが、実在の顧客に聞く代わりにはなりません。AIが生成する回答は学習データの平均的な傾向に寄るため、この記事で扱ってきた「聞かないと分からないこと」、つまり想定と違う事実は出てきにくい構造にあります。仮説の壁打ちや、質問設計の事前チェックには使えますが、意思決定の根拠にはしないでください。

原則として、AIは調査の速度を上げますが、調査の質を代替しません。第1章で書いた「何を決めるための調査か」を定義するのは、いまのところ人間の仕事です。

まとめ

要点を再掲します。

  1. 調査の前に、何を決めるための調査かを1文で書く。書けないなら調査はまだ早い
  2. 仮説は当てるためではなく、外すために持つ
  3. どういう結果が出たらどう動くかを、事前に決めておく
  4. 定性で仮説をつくり、定量で大きさを確かめる。逆もあるが、仮説なしの定量が最も危ない
  5. デプスインタビューは1対1で60〜120分。1セグメント4〜5人、合計12〜15人を初期設定に、飽和を見ながら調整する
  6. 意見を聞く前に、事実を聞く。実際に起きた出来事から入る
  7. ラダリングで属性から価値まで登る。最後の一段が訴求のコピーになる
  8. 既存顧客だけに聞かない。離反顧客と非利用者に、改善のヒントがある
  9. 発言は素材であって結論ではない。要望ではなく課題を取り出す
  10. AIは調査の速度を上げるが、質を代替しない。合成回答者は意思決定の根拠にしない

調査でいちばん大切なのは、手法の知識ではありません。自分たちが何を知らないのかを、正確に把握していることです。

知らないことが分かっていれば、聞くべきことは自然に決まります。逆に、すでに答えを持っている状態で始めた調査は、その答えを補強する材料しか集めません。手法をいくら精緻にしても、この構造は変わりません。

調査の設計に迷ったら、手法の比較表に戻る前に、第1章の3つの質問に戻ってみてください。たいていの場合、そこに原因があります。

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代表について

代表 朝倉 健介

株式会社 ASAKURA

朝倉 健介

「情報サービスと技術の力で、地方に変革を起こす」──その一心で、金融の世界を離れ、地元・三重で会社を立ち上げました。派手な言葉より、目の前の一社の売上を本気で動かすこと。地域に根を張り、お客様の一歩先を照らす存在であり続けたい。それが私の変わらぬ約束です。