変えないものを、決める仕事。丈丸渡船様
三重県尾鷲市、賀田湾。
賀田インターから車で5分の渡船屋さんです。 筏、カセ、そして完全チャーターの近海船。船頭の村田丈幸さんと、若船頭の村田京さんが営まれています。
長くお付き合いいただいているお客様で、今年、それまでブログとして使われていたサイトを、正式な公式サイトとして作り直すことになりました。
| 内容 | 詳細 |
|---|---|
| クライアント | 丈丸渡船 様(三重県尾鷲市曽根町) |
| 業種 | 渡船業(筏・カセ釣り/近海チャーター船) |
| ご支援内容 | 要件定義・情報設計・Webデザイン・実装 |
| 案件の性質 | 既存サイトのリニューアル(社内ブログ → 公式サイト) |
| お付き合い | 継続中(段階的なアップグレードを予定) |
| サイト | https://joe-maru.com/ |
すでに動いているサイトを、作り直すということ
新しくサイトを作る仕事と、すでにあるサイトを作り直す仕事は、まったく違います。
新規なら、失うものがありません。うまくいかなければ直せばいい。 リニューアルには、失うものがあります。
丈丸渡船様のサイトは、社内向けのブログという位置づけでした。ただ実際には、お客様がそれを見て予約の判断をされていました。 位置づけは内部向けでも、機能としてはすでに公式サイトだったのです。
つまりこの案件のいちばんのリスクは、きれいに作り直したことで、いままで使えていた人が使えなくなることでした。
だから最初に決めたのは、何を新しくするかではありません。
何を変えないか。
リニューアルのご相談でいちばん難しい質問は、いつもこれだと思っています。
「昔ながら」は、守るべき資産だった
船頭さんのご意向は明確でした。以前の、昔ながらのブログらしい雰囲気を残したい。
ここで「今風にしましょう」と提案するのは簡単です。実際、そのほうが制作会社としては見栄えのいい実績になります。
ただ、それは違うと考えました。
長く通ってくださっているお客様にとって、あの見慣れた画面は、すでに指名の一部になっています。開いた瞬間の「あ、丈丸さんだ」という感覚。これは何年もかけて積み上がったもので、新しく作れるものではありません。
洗練させることで失われるものがある。この業種では、親しみやすさのほうが価値が高いという判断でした。
そこで、シンプルで、どこか懐かしい佇まいを意識して設計しています。 罫線で区切る素朴な見出し、余白を詰めた情報の並べ方、船の写真と手書き風のロゴ。トップページに置いた「\村田丈幸に電話/」というボタンも、洗練とは違う方向の設計です。電話が一番早い商売なら、それを一番目立たせるべきです。
新しくしないことも、設計です。 何もしなかったのとは違います。
釣果は、ブログ記事ではなかった

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では、何を変えたのか。
ここで、この業種の特性がはっきり出ました。
渡船屋さんのサイトで、お客様がいちばん見るのは 「釣果」 です。 今どんな魚が上がっているのか。どのくらいのサイズか。誰がどこで釣ったのか。
これは、いわゆるブログ記事とは性質が違います。釣行の判断材料です。
- 今週末、行く価値があるか
- 狙っている魚が今釣れているか
- 自分の腕でも釣れそうか
つまり釣果は、読みものではなく 商品情報 でした。 飲食店のメニューや、不動産の物件情報に近い。「最新の状況を示すもの」です。
そう位置づけ直すと、必要なことが変わります。読みやすさより、探しやすさです。
そこで、釣果を魚種でカテゴリー分けできるようにしました。 チヌを狙う人と、アオリイカを狙う人と、青物を狙う人は、見たいものが違います。全部が時系列でひとつに並んでいると、自分に関係のある情報を探すのに、関係のない記事を延々とスクロールすることになります。
釣りをする人は、魚で考えます。 だから、魚で分けました。
カレンダーを決めたのは、勘ではなくGA4だった
もうひとつ実装したのが、釣果カレンダーです。
年と月を選ぶと、その月の日付が並び、釣果が上がった日に印がつく。そこから過去の記録に飛べる。カレンダーは2017年までさかのぼれます。
正直に書きます。この機能は、最初の要件には入っていませんでした。
きっかけはGA4です。アクセスの動きを見ていて、あることに気づきました。 古い釣果の記事が、思っていたよりずっと読まれている。 しかも、特定の時期のものが集中して見られている。
理由を考えてみると、すぐに納得がいきました。
釣りをする人は、「去年の同じ時期はどうだったか」を知りたいのです。 海の状況は季節でめぐります。去年の10月にこの湾で青物が出ていたなら、今年の10月も期待できる。過去の釣果は、古い情報ではなく、来月の予測材料なのです。
つまり、9年分の釣果記録は、消えかけた過去ではなく、現役の資産でした。
ただ、時系列に延々と並んだ記事一覧では、去年の10月にたどり着けません。何十回もスクロールすることになります。資産があるのに、取り出せていない状態でした。
だからカレンダーにしました。年と月を選ぶだけで、その時期の海の様子にたどり着ける。新しく作ったのは機能で、価値そのものはもともとサイトの中にありました。
この判断は、感覚では出てきません。 「カレンダーがあったら便利そう」ではなく、「実際にそういう探し方をしている人がいる」というデータがあったから決められました。
正直に言うと、いちばん緊張したのは、過去の釣果記録に手を入れることでした。
2017年からの記事が、そのまま積み上がっているサイトです。船頭さんが釣行のたびに写真を撮って、書いて、上げてきたもの。私が作ったものではありません。預かりものです。
リニューアルというと聞こえはいいのですが、実際にやっていたのは、消さないこと、順番を狂わせないこと、いままで見られていたものを見られる状態のまま渡すこと。地味な確認の連続でした。
古いサイトに手を入れるのが怖い、というお気持ちは、よくわかります。私も怖かったので。
まとめ
リニューアルの相談を受けると、つい「どう新しくするか」を考えたくなります。 けれど本当に難しいのは、どこを触らないでおくかの判断です。
丈丸渡船様の場合、触らなかったのは見た目の雰囲気で、変えたのは探しやすさでした。 そしてその線をどこに引くかを教えてくれたのは、私たちの好みではなく、実際のアクセスデータでした。
「今のサイトは古いけれど、変えるのが怖い」とお感じの方は、お気軽にご相談ください。まず何が使われているかを見るところから始められます。