「いくらですか」に、サイトが答える。津田塗装店様
京都の津田塗装店様が、新たに始められた事業。
スペイン発のマイクロセメント「CIMENTART(シメントアート)」の正規販売店です。
日本にまだほとんど知られていない材料を、プロの職人や工務店に売る。 その入口となる法人向けサイトを、要件定義から担当させていただきました。
| 内容 | 詳細 |
|---|---|
| クライアント | 津田塗装店 様(京都府) |
| 事業 | 特殊左官材「CIMENTART」正規販売 |
| 対象 | 法人(左官業者・工務店・内装業者・設計事務所) |
| ご支援内容 | 要件定義・情報設計・Webデザイン・実装・見積もり機能の設計 |
| 公開後 | コンテンツマーケティングの補助的支援(継続中) |
| サイト | https://tsuda-cimentart.com/ |
01. 誰も名前を知らない商品を、売る
最初に向き合ったのは、この事業の一番むずかしいところでした。
CIMENTARTは、日本初上陸の材料です。
言い換えると、この商品名で検索する人は、ほぼいません。 知らないものは検索できないからです。 一般的なWebサイトなら、社名や商品名での指名検索がまず土台になります。その土台が、この事業には最初から存在しませんでした。
では、買う可能性のある人は何を検索しているのか。
- モルタル風の仕上げにしたいが、床に厚みを出せない
- 水回りに使える意匠性のある左官材を探している
- 既存のタイルの上から、はがさずに仕上げたい
商品名ではなく、困りごとで探しています。 だとすれば、サイトが答えるべきなのは「CIMENTARTとは何か」ではなく、「その困りごとは解決できるのか」です。この順番を、要件定義の最初に決めました。
02. 買うのはプロ、という前提
もうひとつの前提が、対象が法人だということでした。
個人のお客様と法人のお客様では、買うまでの順番がまるで違います。
個人の場合 気に入る → 問い合わせる → 金額を聞く → 決める
法人の場合 金額がわかる → 施主や社内に提案する → 承認される → 問い合わせる
順番が逆です。
工務店の担当者が新しい材料を使いたいと思っても、その方の一存では決まりません。施主に見積もりを出し、納得してもらう必要があります。つまり「金額がわからない段階では、動きようがない」のです。
ここで多くのBtoBサイトが取る方法は「まずはお問い合わせください」です。 けれど、これは検討の入口に電話をかけさせるのと同じことで、まだ社内で提案もできていない段階の人にとっては、ハードルが高すぎます。 結果どうなるかというと、金額の見えている別の材料が選ばれます。 競合に負けたのではなく、検討の土俵に上がる前に外れているのです。
問い合わせが来ないことの原因は、多くの場合「興味がない」ではなく「まだ判断材料がない」でした。
03. だから、問い合わせフォームを見積もりツールにした
そこで決めたのが、この案件のいちばん大きな設計判断です。
問い合わせフォームに、簡易見積もりの自動計算を組み込みました。
CIMENTARTは、単品で完結する商品ではありません。 下地に塗るプライマー、ベース、マイクロセメント本体、そして仕上げのシーラー。用途によっては顔料やメタリックの材料も加わります。ひとつの現場に、複数の製品が組み合わせで必要になります。
つまり「30㎡だといくらですか」という質問は、実は簡単な質問ではありません。何を何缶ずつ使うかを積み上げないと答えが出ない。だからこそ、人が毎回計算していては追いつきませんし、聞く側も気軽には聞けません。
そこで、必要な製品をあらかじめ登録しておき、選ぶだけで概算金額が出る仕組みにしました。
- 製品を選ぶと、その場で金額が積み上がる
- そのまま問い合わせ・見積もり依頼に進める
- 電話やメールで聞かなくても、検討に必要な数字が手に入る
これで、「提案してみようか」と考えた人が、その場で提案材料を持ち帰れるようになりました。
サイトのナビゲーションも、この流れに合わせています。 「商品を選択」「お問い合わせ」「お見積り」「ご注文」。会社案内型の並びではなく、検討から発注までの順路をそのまま並べた構成です。
なお、あくまで「簡易」見積もりです。 実際の施工では下地の状態や塗り回数で必要量が変わります。自動計算はあくまで概算であり、正式なお見積もりは別途、という位置づけを明示しています。ここを曖昧にすると、後から金額の食い違いというトラブルの種になります。便利さと正確さのどちらを取るかではなく、どこまでが概算かを書いておくこと。 これも要件定義の一部でした。
04. ブランドは、預かりものだった


デザインの立ち位置も、これまでの案件とは違いました。
CIMENTARTは、津田塗装店様の商品ではありません。 正規販売店として扱う、他社のブランドです。 つまりこのサイトには、2つの顔が同居することになります。
- CIMENTARTというブランドの世界観(材料そのものの魅力・質感・海外由来の雰囲気)
- 津田塗装店という販売店の信用(誰から買うのか・相談できるのか・京都の会社である)
どちらかに寄せすぎると、うまくいきません。 ブランド一色にすると、どこの誰から買うのかがわからなくなります。逆に販売店の色を出しすぎると、材料そのものの魅力が伝わりません。
そこで、ブランドカラーを軸にした設計にしました。 材料の見え方はCIMENTARTのブランドに揃え、写真と質感で語らせる。その上に、販売店としての情報(問い合わせ先、対応範囲、施工事例)を重ねていく。主役は材料、責任者は津田塗装店様という関係が、見た瞬間に伝わる構成です。
預かったブランドを、勝手に作り替えないこと。 正規販売店のサイトでは、これが守るべき一線でした。
05. 公開してからが、本番だった
01でお伝えしたとおり、この商品には指名検索がありません。 サイトを公開しても、そのままでは誰も来ない。 これは公開前からわかっていたことでした。
そこで、公開後のコンテンツマーケティングについても、補助的にご一緒しています。
方針はひとつです。プロが実際に口にする質問を、そのまま記事にする。
- シメントアートってどんな製品? 主な特徴やモルタルとの違い
- 防水性能ってどれくらい?
- 強度はどのくらい?
- 色は選ぶことができる?
- どういったところに施工する製品?
見ていただくとわかるとおり、すべて疑問文です。 これは検索されている言葉の形に合わせているのと同時に、営業の現場で毎回聞かれる質問でもあります。つまり記事は、集客の道具であると同時に、商談で「これを読んでおいてください」と渡せる資料にもなります。
知られていない商品を扱う事業では、記事はコストではなく在庫です。 1本書けば、それは翌年も再来年も働き続けます。指名検索がゼロの状態から始める事業にとって、これがいちばん確実な積み上げでした。
施工事例の追加も継続しています。「こういう質感、うちにも合いそうかも」と思ってもらうには、言葉より写真が早いためです。
「問い合わせが来ない」というご相談を受けると、原因が興味の不足であることは、実はあまりありません。たいてい、判断材料が足りていないだけです。
とくに法人向けの商売では、買ってくださる方にも社内を通すという仕事があります。上司に説明する、施主に見積もりを出す、稟議を書く。その材料をこちらが渡せていないのに「まずはお問い合わせください」と言っても、動きようがないわけです。
だから今回は、サイトが先に数字を出すようにしました。派手ではありませんが、こういうところが結局いちばん効きます。
まとめ
BtoBのサイトは、かっこよく作るだけでは動きません。 買う側には、社内を通すという仕事があります。 その仕事を助けられるかどうかが、問い合わせの数を決めます。
今回でいえば、それが「金額がその場でわかること」でした。 デザインでも文章でもなく、計算機能がいちばんの営業ツールだった、という案件です。
法人向けの商材をお持ちで、「サイトはあるが問い合わせが来ない」とお感じの方は、お気軽にご相談ください。原因が興味の不足ではなく、判断材料の不足であることは、よくあります。

